第三章 公開処刑 4







「おいこれ……シャレになんねえだろ」
 首を引っ込めると、絶望的な気持ちで、ジキリは呻いた。重い扉を閉め、音をたてないように錠をかける。息を殺してそこから離れ、積み上げられた木箱の間をすり抜けて、難しい顔をして立っているスノウの隣に戻った。
 どうやらこの部屋は、物置のようだ。なにが入っているのかわからない、古びた木箱がところ狭しと並んでいる。雑然としているようで、実は計算されつくされているのか、隙間を通り抜ければ、スノウのいる部屋の角に行き着くようになっていた。
「うまくルートを使えたってのに。世の中厳しいねえ」
 壁にもたれ、無精髭を撫でる。
 スノウの弁によれば、ルートとはネストキィレターの力で空間をねじ曲げ直結させた道であり、道を繋げる鍵となる文字を知ってさえいれば、誰でも使うことができるとのことだった。スノウはネストキィレターをすべて覚えており、一瞬でも見ることができれば鍵を複製することなどたやすいらしい。実際、伝師がルートを使う際にかざした石版をちらりと見ただけで、スノウはジキリの持っていた紙にすらすらと難解な文字を書いた。そうやってルートを利用し、ここまで来たのだ。
 ジキリの作戦は完璧で、決行も鮮やかだった。それは、ジキリとスノウ、二人いたからこそできた芸当だ。
 まず、スノウが尖獣の姿になり──人間の姿に戻るときとは違い、尖獣の姿にはスノウの意志一つでなることができるらしい──、単身教会に忍び込む。小さな身体を活かして伝師のあとをつけ、ルートの起点を探り、鍵となる文字を盗み見る。
 そして、人間の姿に戻り、ルートの鍵を複製する。あとは、はち合わせないよう深夜まで待って、ルートを通るだけだ。トラブルもなく見事にすべてをこなし、いまに至る。
「ここまではパーフェクトだったんだけどなあ」
 独り言ではなく、一応は話しかけているつもりだった。しかし、隣を見ると、スノウはジキリの話を聞いている様子がない。眉間にはひどく深いしわが刻まれている。
「スーちゃん。まだ怒ってるんですか」
 呆れながらも、宥めようとしてみる。しかし逆効果だったようで、スノウは血走った目でジキリを睨みつけた。
「一度ならず、二度までも……!」
 震えている。怒りによるものだということは、ジキリも理解していた。
 二度までも、ジキリによって人間の姿にならなければならなかったのが問題らしい。
「あのなあ、おれの作戦聞いて目輝かせて、私に任せておけ! とかいいながら尻尾振って教会入ってったの誰だよ。あんたが見た文字を書いてもらわなきゃなんねえんだから、もう一度人間になるのはあたりまえだろ」
「事前に聞いていれば、承諾しなかった!」
「そこまで考えが至らねえのが馬鹿なんだよ」
「ば……!」
 スノウが目を見開く。どうやら相当なショックだったようで、ぐらりとよろめいた。
「……か……!」
 壁に手をつき、うなだれる。励ましてやりたいが、おそらくはなにをいっても追い打ちになるだろう。
「そんなことより、この先のことを考えようぜ。まずは脱出だ。なんでこんなことになったのかね」
 ルートの終点は、広大な地下だった。石の床と壁がどこまでも続き、湿った空気が流れる薄暗い空間は、カイミーアの呪術的な臭いを感じさせる、気味の悪い場所だった。ルートの起点がそもそも教会の地下に隠されていたので、終点も地下なのだろうということは予想していたが、その巨大さは想像を遙かに超えていた。
 そこに立ったとき、ジキリのトレジャーハンターの血は、騒ぐどころか警鐘を鳴らしていた。関わるべきではないという、直感だ。
「だいたい貴様は、ネストキィレターも学んだのだろう。わざわざ私を人間に戻さずとも、形態を聞いて紙に書き起こすぐらいの技はないのか」
 ねちねちとスノウがいう。そうきたかと思ったが、おとなしく真っ向から相手をしてやることにする。
「ネストキィレターなんてな、モノにするやつがバケモンなんだよ。全部で何千字とかあんだろ、無理無理」
「約八千字だ。ネストキィレターの素晴らしさはとても説明できないが、聞きたいか? 聞きたいだろう。良い機会だ」
 断ろうとしたのだが、その隙がない。そもそも良い機会でもない。スノウは悦に入った様子で、瞳を閉じて語り出す。
「ネストキィレターとは、この地方で文明を発展させた民族が作り出した、世界最初の文字だ。ほとんどが象形文字だが、発展に伴って表意文字、表音文字までがその数を増やし、結果、他の文明よりも数千年先をいき、私たちが話している言葉さえも文字として記すことに成功した。実用性もさることながら、芸術性が高く、正確な文字は存在そのもので世界に干渉しうるほどの力を持つ。文字同士の組み合わせによって意味が変化する面もあり、完全に理解するためには並々ならぬ努力を……」
 水を得た魚のように、得意げに語る。ジキリは最初こそ聞いていたが、途中からはもう右から左に通り抜けていった。興味がないものについていくら力説されても、スノウのいう「素晴らしさ」などちっともわからない。
「エスもだけど、なんでそんな詳しいわけ」
 何気なく訊いてみると、とたんにスノウは黙った。のどの調子がおかしいといわんばかりに、咳払いを繰り返し始める。
 そこには触れて欲しくないという空気が、彼の全身から溢れ出ていた。そういうものはかえって好奇心をあおるものだが、あまりにも露骨すぎると今度はどうでもよくなる。まあなんでもいいけど、とジキリは嘆息した。
 トレジャーハンターの中には、世界各地に眠る古代文字を発掘し、言語研究機関でありライティングの技術を総括するプース・オングルへ売りに行くものもいる。結構な高値で売れるため、ジキリも一時期は手を出そうと思ったものだが、結局はやめてしまった。どうしても、そこにロマンを感じられなかったからだ。命がけで得たそのものに価値を見出すのではなく、ちまちまと売りに行くというのが性に合わない。
「お勉強の話は、まあいいわ。読み書きなんてシグヌムがあれば充分だしな」
「シグヌム! 私にいわせればあれほど品のない文字は……」
「だから、いいって。あんま熱くなんなよ。見つかるぞ」
 うう、とスノウは口ごもる。どうやらまだまだいいたりなさそうだったが、つきあってやる義理はない。
「ふん。状況は、理解している」
 しかし、思ったよりも立ち直りが早かった。いま自分たちがとういう立場なのかを思い出したようで──忘れていたと指摘すれば間違いなく怒るだろうが──スノウはしたり顔で腕を組む。
「貴様、外を見て、シャレにならないといったな。予想がつくぞ、なにが見えたのか。当ててやろうか」
「や、いい」
 ジキリは即座に断った。だからそういう場合じゃないだろうと、いわなくてもきっとわかってくれるはずだと信じる。
「いいだろう、当ててやる」
 過剰な期待だった。スノウは目を細める。
「ここはつまり……要するに、王城なのだろう、ジキリ。そういうこともあるだろうと、私は思っていた」
「へえ」
 ジキリは素直に感嘆した。扉を開けてジキリが見たものは、先が見えないほどにまっすぐ、どこまでも続く青い絨毯と、燭台や絵画、彫刻といった調度品だったのだ。深夜だというのにいくつかの蝋燭には火が灯されており、それらすべてがおそろしく値の張る上等なものだろうということがわかった。
 地下に繋がるこの部屋は、その長い長い廊下の突き当たりだ。一見物置のようなのは、カモフラージュということだろうか。
「思ってたんなら、そういうことはいっとけよ、スー。おれのチキンハートが潰れたらどうすんだよ」
「願ってもない結果だ。王都まで一瞬で来られたんだ。不満に思うことなどないだろう」
「こっからどうすんだって話だろうがよ」
 ジキリは頭を抱えたい気分だった。床に尻をつき、あぐらをかく。自らの足に肘をつくと、顎を乗せた。
 スノウのいうとおり、ここはおそらく、王城なのだろう。これだけの規模で、王城以外のどこかだといわれても説得力がない。伝師やレッドウォーカーが使うルートが繋がっている先が王城というのは、考えてみれば合理的だ。この国を動かしている人間の指示で各地に派遣されているのだから、国の中枢に繋がっているのはごく自然なことだった。
「胡散臭えよなあ、カイミーア。あの地下なんだよ。どんだけでかい穴掘ったんだか」
 この先の計画を頭の中で必死に練りながら、ぼやく。もくろみ通り王都まで来られたのはいいが、欲をいえばもっと慎ましい場所が良かった。どこからどう見ても城とは縁のない不審者のなりで、無事に出られる気がしない。
「順序が逆だ。もともと、この土地の地下には、利便性のためにルートが張り巡らされていた。海を越えた大陸にもあるにはあるが、少数だろう。ネストキィレターの起源は、ここだからな」
「あ? 順序?」
 スノウは、カイミーアの事情にいやに詳しい。それはエスメリアも同じだ。尋ねてみたことはないが、実は二人とも、この国の出身なのではないかとジキリは密かに思っている。
 そのスノウが口にした、順序という言葉。ジキリはスノウを見上げた。
「ちょっと待てよ、整理する。この土地で文明を発展させた古代人が、ネストキィレターを生み出して、ルートと、それから霧を遮断する町のシステムを作った……それはいまでも残っていて、カイミーア王国はその恩恵を受けてこの土地で暮らしている……だろ?」
 スノウは、ジキリを見下ろしてはいなかった。うなずくこともない。
 当時栄えた高度な文明は、他勢力とは海を隔てていることもあり、影響を受けることも、もちろん滅ぼされることもなく、存続し続けたといわれている。カイミーア王国は、強大な力を持つ文字そのものを神聖視し、ネストキィレターを過去の形のままで永遠に残し、崇める道を選んだ──これが、大陸で学ぶ歴史だ。
 ジキリは幼少のころ、特別に歴史に興味を持っていたというわけではない。それでも、よほどの辺境でない限り、読み書きと歴史、地理や世界の仕組み等を教える学校が、大陸にはある。そこでも学ぶことだったし、一般的な知識としても、ジキリの口にしたことは正しいはずだった。
 しかし、スノウはうなずかなかった。
 順序──ジキリは、口の中でつぶやく。
 ひどく重大な事実が、知らないなにかが、そこにあるような気がした。そしてそれを、スノウも、おそらくはエスメリアも、知っているのだ。
「いつまでもここにいるのは危険だ。どうにか城を抜け出して、処刑場へ行かなければならない」
 まるで先ほどまでの話などなかったかのように、スノウがいった。釈然としなかったが、スノウのいうことはもっともだった。ジキリは立ち上がって、よし、とうなずく。
「このまま飛び出したら、いきなり捕まるのは間違いないわな。まあ、案外それが処刑場への一番の近道かもしれねえけど」
 冗談ではなく、いう。スノウが嫌悪感を露わにしたので、肩をすくめた。
「正攻法でいこうぜ、相棒。あんたのライティングで、おれの服をちょちょいっと伝師かレッドウォーカーの制服にすればいい。それとも、おれを小動物の姿にするとか、できるか?」
「無理だな。ライティングは万能じゃない。大気中の物質を変質させ、主に光の情報を書き換える。要するに、目の錯覚を起こすだけだ。貴様のその馬鹿でかさは、どうあっても馬鹿でかいままだな」
 スノウが力を込めて馬鹿を連呼する。さては根にもっているなと思いつつ、ジキリはあえて触れないことにする。
「そんじゃあ、単独行動なら、伝師がいいか。伝師の制服、見ただろ。あの橙の派手な羽根帽子」
「確かに単独行動なら……単独行動?」
 眉をひそめ、スノウがジキリを見る。ジキリは満面の笑みでうなずいた。制服の胸元を開ける動きをして、そこを指さす。
「小さけりゃ、ここで運べるだろ。静かにとかこっそりとか苦手だろうしな。もう一回小さくなってろ。な」
 できるだけ明るくいったのだが、スノウは見る見るうちに激昂していった。
「なにを馬鹿な! 二度ならず三度までも……」
「違うだろ、スーちゃん」
 ジキリは、甘い声で呼びかけた。スノウの耳元に口を寄せ、囁く。
「愛しのエスがいるかもしれないぜ? 再会の瞬間に飛びついて、熱烈なキッスでその姿になったら、かっこいいんじゃねえかなあ。やあ、羨ましい。できるもんならおれがやりたい。ああもうほんと羨ましい」
「おお……」
 スノウが目を見開いた。感動に打ちふるえているようだった。大きな瞳が潤んでいる。
「なんと素晴らしい……!」
 素晴らしいのはおまえの頭だ、と思ったがもちろん口にはしない。スノウはジキリの案がいたく気に入ったらしく、いそいそと衣類に文字を記していった。彼がいつもそうするように、滲んだ血を押しつける。文字が輝いたかと思うと、ジキリの服装は伝師のそれに変化していた。
 ライティングで用いられているのは、大陸で栄えた文明で生まれた文字だ。大陸の人間はそれを古代文字と呼ぶが、考えてみればネストキィレターも古代文字であることは変わらない。世界そのものに干渉するために文字の力が有効だと、海を隔てた遠い場所で違う文明の人々が気づいたということになる。その点にはロマンを感じないでもない──ジキリは己に施されたライティングの力に、そんなことを思う。
 ただ、その後の変遷は、大きく違っていた。
 大陸では、カイミーアとは違い、文字の力を広く民衆に開放したのだ。その結果、生活の中で使用していくうちに、文字は利便性が優先され、数そのものが減少した。読み書きは子どもでもできるほどになったが、皮肉なことに、ライティングの力を弱めるに至った。
「どっちが良かったんだかねえ」
 ぼんやりと、つぶやく。見ると、スノウはいつの間にか尖獣の姿になっていた。木箱の上から、苦々しい表情でジキリを見据えている。
「レッドウォーカーのほうがましだったかもな」
「お、なんでだよ」
 その話ではないのだが、と思いつつ、ジキリは好奇心から聞き返してみる。
 スノウは小さな白い手を、眉間にあてた。
「あまりにも似合わない。気づくべきだったのだ。伝師はどちらかといえば、筋肉より脳が鍛えられているはずだというのに……」
 どうやら、真剣に苦悩しているようだ。失礼だろ、と不満を口にしようとして、ジキリは黙った。
 足音が、聞こえる。それも、一つではない。複数の足跡だ。
「誰か来るな」
「二人だ」
 スノウは、音もなく木箱から降りた。
「……だ、嘘をいっているふうじゃあなかったが」
 話し声が、次第に大きくなる。スノウのいうとおり、男性二人のようだ。
 部屋の中に人がいるなどとは思いもしないのだろう。扉の前で立ち止まり、話を続ける。
「そんな馬鹿な話があるか。あいつら、お手柄だって浮かれてただろ。捕まえたつもりが、逆に魔女の呪いにでもかかったかもな」
 声に紛れて、金属音。
 この部屋は、内側から錠をかけられる仕組みになっていた。施錠が徹底されているらしい。廊下側から鍵を用いて開けようとしているようで、小さな音が響く。
「……ニュースマン、ニュースマン、おれはニュースマン」
 ごくごく小声で、ジキリはつぶやく。足もとから「伝師だ」とご丁寧に訂正される。
 ジキリは生唾を飲み込んだ。こういうときのための変装だと、自らを奮い立たせる。まさか誰かと対面するとは思っていなかったが、ここは度胸で乗り切るしかない。
「しかし、魔女だからな。姿形を変えるぐらい、するだろ。そもそも人間なのかどうか」
「最初は眼鏡の女で、次が……なんだ、子どもで? で、今度は、眼鏡じゃない別の、髪の長い女か。確かめろっていわれてもな。髪の長い女がいたところで、変身した証拠にはならん」
 どちらかというと愚痴のようだ。ぶつぶつと話し声の続く中、扉が開けられる。
 レッドウォーカーだ。
 赤い制服に身を包んだ二人が、立っていた。ジキリはとりあえず安堵する。同じレッドウォーカーのふりをするよりも、伝師のほうがごまかしが利くだろうと思ったのだ。
「誰かいるのか?」
 しかし、二人はジキリに気づくと、表情を険しくした。ジキリは会釈をする。
「戻りが遅いんじゃないのか。さっさと行け」
「どーも」
 黙っているのもどうかと思い、ジキリは一言口にする。ひょいと片手をあげて、二人の脇をすり抜けた。
 しかし、そのまま廊下の先へ行くことは、できなかった。
 レッドウォーカーの一人が、ジキリの腕を掴んだのだ。
「……あれ? なんでしょう?」
「怪しいな。どうも違和感が……」
「こんなでかい伝師はいなかったはずだ。それに、髭だと? 貴様、どこの所属だ」
 大きさで! ──ジキリは驚愕する。まさか、スノウのいったことがこれほど的を射ていたとは。
「ええと」
 目が泳ぐ。所属といわれても、なんといえばいいのか見当もつかない。
 ジキリは腹を決めた。
 黙っているよりは、攻めていこうと前向きに考える。
 帽子の羽根を撫で、顎に親指と人差し指をあて、斜め上に顎を上げて、見下ろすように二人に視線を合わせる。
「宝を追ってどこまでも──生粋のトレジャーハンター、ジキリ・ナスタ」
 いい終わると同時に、一人を蹴り上げた。飛びかかってきたもう一人は、逃げるふりをして回し蹴り。倒れたところに肘を体重ごと落とし、起き上がりざまに最初の男の腹に拳を打ち込む。
「やべえ、おれかっこいい」
 倒れ伏した二人を見下ろして、ジキリは己に惚れ惚れした。この程度なら、よほどの多勢でない限り、勝てる自信があった。
 ちなみにこの場合の宝というのはエスメリアのことだぜ──いいたかった台詞は飲み込んでおく。本人がいないところでいっても仕方がない。
「じゃあ、そういうことで……」
 そそくさと去ろうとする。しかし、ガチャリという不穏な音が、足を捉えた。
 金属の輪が、足にはめられていた。一度はやられても、さすがは国を守るレッドウォーカーというべきか、男は倒れた状態で、ジキリの足に素早く金具をつけたのだ。
 輪から伸びた鎖の先には、もう一つの輪。それは、レッドウォーカーの手首につけられている。
「に、逃がさんぞ……不審者め」
 どうやら、逃げられそうにない。しかしそれは、力のみで解決しようとした場合だ。スノウのライティングの能力を持ってすれば、あるいは──期待を込めて、白い生物を探す。
 見えたのは、ものすごい勢いで廊下を走り抜けていくスノウの、清々しい後ろ姿だった。
 微塵もためらわなかったに違いない。
 そうでなければ、あれほど遠くには行けまい。
「ひっでえ……」
 うなだれたジキリの手に、もう一人のレッドウォーカーが、新たに金具をつける。
 これではもう、どうやっても逃げられない。
 ジキリは観念して、大きなため息を吐き出した。