第三章 公開処刑 1







「あんたらに貸す部屋はないよ。帰っとくれ」
 故意に大きな音をたてて、ドアが閉められる。ジキリが首をすくめ、スノウはジキリを睨みつけた。特大の恨みを込めて、黙っていてもその目線だけですべてが伝わるように。
 しかし、ジキリに気づく様子はない。期待してしまった己を呪いつつ、決して同じことが起こらぬよう、スノウは口を開く。彼には一度、しっかりと、誠意を込めて、説教しておく必要があった。この、図体ばかりでかいお荷物に。
「なぜ、口を開いた」
 怒りを押し殺し、静かに問う。町中で怒り狂うのは、スノウの美意識に反する。
 しかしジキリは、無精髭を撫でながら、合点がいかないとばかりに首をかしげた。
「なんでかねえ。喜んで部屋をお貸ししますわもちろん夜はあたしのベッドで、ってなるはずだったんだけどな」
「分かりやすくいい直してやろう」
 スノウは目を見開いた。そこから見えない光線でも飛ばしそうな剣幕で、しかしやはり声を抑え、ジキリに詰め寄る。
「なぜ、貴様のその下手くそな発音でカイミーア語を口にし、あまつさえ貴婦人を籠絡しようとし、私のただの町渡りだから怪しくないですよ作戦を台無しにしたんだ……! この国では、宿のある町自体稀少だ! 教会に行きたくないといったのは貴様だろう!」
「あ、悪い悪い、もうちょっとゆっくり話せよ。聞き取れねえだろ。おれはそこまで語学タンノーじゃないんだからよ」
 へらへらと笑って、ジキリが拝むように片手を顔の前に出す。
「はい、もう一度ー」
 そのまるで反省していない様子に、スノウは眉間のしわを深めた。なんということだろう。やはり一人で来たほうがましだったに違いないと、この国に入ってから何度も思っていることを改めて思い知る。
 スノウの知る特殊なルートを使い、カイミーアに入国してから丸一日経ったが、依然としてエスメリアの居場所はわからず、手がかりもない。
 気ばかりが焦り、エスメリアに対する想いは募るばかりだ。もう耐えられない、とスノウは額を押さえた。
「エスメリア、私がこんな馬鹿と行動をともにしているばっかりに……!」
 空を仰ぐ。柔らかくほほえむエスメリアの姿が見える気さえした。いいのよスノウ、気にしないで──会えない時間は、彼女の人格までも確実に美化している。
「なあ、スー。だからよ、最初の作戦でいこうぜ。へたにこの国の人間装うんじゃなくて、さっさと本でもなんでも見せびらかせて、捕まっちまえばいいんだよ。そんで、エスのとこまで連れてってもらってハッピー、でいいだろ」
「スノウと呼べ! その作戦は最終手段だ。捕まってエスメリアのもとに駆けつけたのでは、あまりにも格好がつかない」
「手段を選んでる場合かねえ」
 両手を頭のうしろで組んで、ジキリは大欠伸を披露する。なんて下品な、と思いつつも口にはせず、スノウは音を出さすに奥歯を噛みしめた。
 エスメリアのもとに颯爽と現れ、彼女を助けるつもりだったのだ。それはもう、連れ去られた姫を助けるがごとく。
 油を売っている場合ではないというのに、ジキリはとにかく一直線に進むということがなかった。ふらふらと右へ左へ、しかも数歩ごとに女性に声をかけている。老若男女お構いなしだ。一応はカイミーア語を学んだということだったが、彼の発音では母語でないことが丸解りで、カイミーアに住まう町渡りだといってもほとんどが信じてもらえない。そう釈明することで、かえって不信感が増すだけだ。
 黙っていること──スノウからの要求は、その一点のみだ。しかし、ジキリには到底無理なようだった。
「もう日が暮れる。町からは出られないが、町の中なら安全だ。どこか人目のつかないところで、野宿しかないか……」
 スノウはぐるりと首を回す。背の高い建物といえば教会しかない田舎町だが、よく作り込まれていて、町を囲む外壁の中には整然と建物が並んでいた。カイミーアの外でエスメリアと夜を過ごす折りには、木陰や洞穴を探したものだが、もちろん町の中にそのような場所はなさそうだ。
「ねえよ、そんな場所。もういいから教会行こうぜ、教会。さっさと寝て、早朝に町を出ねえと」
「教会はイヤだといったのは、誰だ!」
「おれだよ、おれ。なんだよもう、セニハラだろ。細かいねえ」
 スノウを追い越し、ジキリが教会目指して歩き出す。傾いた太陽よりも少し上の位置に、町を一望する教会のトレードマークがあった。抽象画のような巨大な文字。灰色の楼閣の上部に掲げられた文字がなにを意味するのか、カイミーアの人々は知らない。ただ、教会に必ずある文字──そういう認識をする以外に、彼らに道はない。
 教会への道すがら、人々がちらちらとこちらを見ては、耳元に口を寄せ何事かを囁いている。ろくでもないことをいわれているのは明らかで、スノウはどんどん気分が重くなっていくのを自覚した。字を書くという習慣がないせいか、それとも単に国民性か、カイミーアでは人の噂が異様に早い。
「捕まっちまえば早いとはいったけどよ」
 ちらりと振り返って、ジキリが堂々とブルーアス語で話しかけてきた。諫めようと口を開いたが、しかし今更かと、スノウは空気を飲み込む。
「なんだ」
 結局は、ブルーアス語で返す。満足そうに一瞬笑みを見せ、ジキリは続けた。
「文字狩りに遭遇しないことには、そういうわけにもいかねえよなあ。教会主に本を突き出せば、捕まるもんかね」
「最後の手段で故意に連行されるとしても、相手はレッドウォーカーの方が確実だろうな。あえてエスメリアと別の道を行くこともない」
「ま、そうだわな。なんにしても、情報が少ねえよなあ。売ってねえのかよ、ニュースペーパー」
 最後の一言は明らかに冗談だったが、スノウは触れずに目線を逸らした。それよりも、情報という言葉に思いを巡らせる。この国で得られる情報は多くない。町と町との行き来がほぼ皆無なので、隣町の情報すら入ってこない。また、町の人々に、情報を知りたいという欲も見られない。
「情報の規制、統制……それ以前の問題か」
 独り言のように、つぶやいた。彼らがいま興味のある話題といえば、せいぜいが赤い魔女のことだろう。自分たちの町はだいじょうぶなのかどうか、己の安全を守る意味で、赤い魔女の情報は重要な意味を持つはずだ。
「そもそも、エスがおとなしく捕まったままとも思えねえんだよなあ」
 独り言のように、ジキリがつぶやく。スノウは答えなかった。その可能性はあまり考えたくないのだ。自分が格好良く助け出したいのだから。
「やっぱりあれだな、とりあえず捕まるか。そんで、見当違いなら逃げればいいんだし……」
「ジキリ」
 スノウは鋭く叱咤した。数人の男たちが、こちらに向かって駆けてきたのだ。
 風当たりが強いのは間違いないが、さすがにカイミーア人ではないという理由だけで飛びかかられることはないはずだ。スノウは慌てていいわけを考える。考え始めて、なにに対していいわけをすればいいのかわからないことに気づく。
「いや、あの、この男は──」
 まるっきり犯罪者のように見えるでしょうがそうではないのです──そう弁明しようとして、未遂に終わった。
 杞憂だった。男たちはスノウとジキリを追い越していったのだ。
「良かった、貴様の外見が言語の壁を越えたのかと」
 真剣に安堵する。
「おうおう、おれはただ歩いてるだけで捕まるのかよ」
「そういうこともあるだろうな」
「おまえ、エス以外は人間とも思ってねえだろ。傷つくんだぞ」
 ふん、とスノウは笑った。傷つくのは大いに結構だ。むしろしっかりと落ち込んでおいていただきたい。口を開く元気がなくなるぐらいに。
「だいたいなあ……」
 ジキリがなおもなにかをいいつのろうとする。聞きたくないことをいわれるのは目に見えていたので、スノウは耳を塞ごうと手を持ち上げる。
 しかし、結局はその手を止めた。町の人々が急ぐ先に、橙色の衣服を着た男の姿が見えたのだ。彼は一度身を屈め、自前らしい踏み台を教会前の石畳に置くと、その上に乗る。背筋を伸ばし、集まった聴衆を見回した。
「お、珍しいな。なんつったっけか」
「伝師だ」
 ジキリの疑問に、とっさに出たのはカイミーア語だ。だが、その単語をブルーアス語でどう表現していいものかわからず、スノウは一瞬思案する。
「とにかく、貴重な情報源になるのは間違いない」
 ジキリを追い越し、聴衆に混ざった。伝師は教会の前を陣取っているので、どちらにしろ、目的地はこの人だかりの向こう側だ。
「ああ、歩くニュースペーパーな」
 どうやらあまり期待していない様子のジキリが、のらりくらりとスノウの隣につく。スノウはもはや、意識を伝師に集中させている。
「言は一つ。繰り返す、言は一つだ」
 羽のついた橙色の帽子をかぶり、高い位置に立った伝師は、いかにも偉そうに周囲を見下ろした。当然だが手にメモの類を持っているわけでもなく、手ぶらで、ただ胸を張っている。教育が行き届いているというべきか、人々は不平を漏らす様子もなく、固唾を飲んでじっと静かに待っている。
「ルーガルド王子の指揮により、赤い魔女を捕らえた。繰り返す、ルーガルド王子の指揮により、赤い魔女を捕らえた」
 おお、と息を飲むようなどよめきが起こる。声を大にすれば伝師の言葉が届かなくなるからだろう、大声で騒ぐようなものはいない。
「クリカエス!」
 しかし、例外はいるものだ。ジキリが口調を真似て、そっくりに胸を張ってみせた。小声ではあったが何人かが振り返り、スノウは悪意を込めてジキリの足を踏みつける。己の靴底に刃が仕込まれていないことが悔やまれてならない。
「捕らえたのは今日の早朝。明日、王都ミセアランの処刑場にて公開処刑を行う。捕らえたのは今日の早朝。明日、王都ミセアランの処刑場にて公開処刑を行う」
「お、いわなくなったでやんの。クリカエス、好きだけどなー」
「……頼む、黙っていてくれ。お願いだ」
 とうとう懇願した。ジキリは肩をすくめるだけだ。
「赤い魔女は、どこにいたんだ」
 聴衆の一人がそう疑問を投げかける。声は男のものだったが、誰もが気になっていたところだったのだろう、質問者に視線が集中し、そしてすぐにそれは伝師に移った。
「消えてしまった町はあるの?」
「もう驚異は去ったということだな?」
 次々と質問が飛び出す。しかし、伝師が一度咳払いをしただけで、すぐに静寂が訪れだ。
 伝師はじらすように、じっと聴衆を見渡した。それからゆっくりと、口を開く。感情のない事務的な声は、やはり表情のない唇から発せられる。
「赤い魔女が発見されたのは、ラシーダの西、ミジェリア地方北西の教会だ。赤い魔女の所業により、教会が加護を失う結果となったが、その先のロイツノーツがすでに存在していないため、教会主もいない場所だった。問題ない」
「ロイツノーツ……」
 スノウは思わずつぶやいていた。隣にいるジキリにも聞こえないほどの小さな声ではあったが、久しぶりに口にしたその町の名は、彼の胸の奥深くへ降りていった。
 記憶の扉が叩かれる。否応なく、あの日の情景が蘇る。
 スノウにとっては、特別な場所だ。文字研究の町、ロイツノーツ。
「赤い魔女を捕らえたことにより、魔女の驚異は去った。今後は、神の加護が失われるような事態は起こり得ない。そのことについては、公開処刑後、改めて言が出るだろう」
 これ以上いうことはないとばかりに、伝師は口を閉ざした。それからゆっくりと周囲を見下ろして、目線だけで問う。もう質問はないはずだと、その表情が語っている。
「ええと、聞いていいかな」
 しかし、ジキリが静寂を破った。発音のおかしなカイミーア語ながら、堂々と挙手をする。スノウはひやりとしたが、こうなってしまっては余計なことをしないほうが良い。ジキリの方向をあえて見ず、しかし全神経をそちらに向けて、懸命に黙っていた。
「おれらはさ、赤い魔女の噂を聞いてブルーアスからはるばるこの国に来たんだ。ちょっと腕に覚えがあってね、そんな悪者やっつけてやろうってな。なあ、相棒」
 他人のふり、他人のふり……胸中での念仏が意味を失う。いつの間に相棒にまで昇格したのだろうか。というよりも、スノウ自身が彼を相棒と認定した覚えがない。
「なあ、相棒」
 あろうことか繰り返されたので、スノウは青白い顔でうなずいた。うなずくことしかできそうにない。
「で、その赤い魔女が捕まったってんなら、そりゃあめでたい。おめでとう! 素晴らしい! でもこのまま帰るのも悔しいだろ、わかるだろ、そこんとこのオトコゴコロ。その公開処刑ってのを、ぜひ見学したいんだけどよ、それは可能なんですかね?」
 可能なわけがないだろう阿呆め──スノウは腹のなかで目一杯罵る。
 そして、気づいた。ジキリのいわんとしていることを、おぼろげながら理解する。
 赤い魔女を捕らえたのが今日。公開処刑が明日、王都で行われるという。
 それはあまりにも、急ではないだろうか。
「公開処刑だ。公開されるのだから、無論、可能だ。しかし、ここから王都へは徒歩で数日かかる。間に合わないだろうな」
 表情一つ変えず、伝師が答える。ジキリの質問の意図も、その意味も理解していないのか、聴衆たちは眉をひそめるばかりだ。いったいなにをいっているんだこの余所者は──声にはしないが、いかにも煙たがっている雰囲気が伝わってくる。
「あい、了解。どうもね」
 意外なことに、ジキリはあっさりと引き下がった。伝師が使っているであろう特別なルートを自分たちにも使わせろと、そう食い下がるとばかり思っていたスノウは拍子抜けする。それだけか、と口に出してしまいそうだ。
「言は以上。繰り返す、言は以上だ」
 一際大きな声で、伝師はそう締めくくった。ぱらぱらと聴衆が捌け始めるのを確認し、台から降りる。踏み台を肩に担いで、教会へと入っていく。
「……どういうつもりだ?」
「や、どういうつもりもないけどよ」
 ジキリは眠そうな顔で、無精髭を撫でている。スノウが胡散臭くてたまらないという目を向けると、傷ついたような顔をした。
「あのなあ、エスを助けたいのはおれも同じなんだよ。ちゃんと考えてるって。……つーか、捕まった赤い魔女って、エスじゃねえの?」
「なにをバカな!」
 スノウは激高した。大声で、しかもジキリにつられてブルーアス語で叫んでしまい、視線に気づいて咳をする。腕を組み、そそくさと移動した。教会から距離をとった民家の脇に入り、壁にもたれかかる。死角ではないが、教会の目の前ほどには目立たない。
「……バカなことをいうな。エスメリアは、誰かを処刑することはあっても、処刑されることはない」
「それもまた微妙だなー。誉めてんだかなんなんだか」
 ジキリも寄ってきて、隣にもたれる。頭を低くし、声をひそめた。
「ま、どっちにしても、その公開処刑ってのは、臭いな。本当に赤い魔女を捕らえたんなら、急いで処刑じゃなくて、もっと調べることがあるんじゃないのかね……ほかに仲間がいる可能性だってあるだろうし、組織ぐるみかもって噂だってあるんだからよ」
「そのあたりのことは、わからないが」
 スノウはあっさり考えることを放棄した。難しいことは考えるだけ無駄だ。
 それよりも、気づいたことがあった。エスメリアがこの国に入った最初の目的を思い出したのだ。正確には、忘れるはずもなかったが──エスメリアを助けなければという思いばかりが前に出て、思い至らなかったのだ。
 まだ時期ではないけれど……──カイミーアに行くと決めた日、エスメリアはいった。赤い魔女が出たというのならば、すぐにでも行かなくてはならないと。
「エスメリアは、噂になっている赤い魔女に会いたがっていた。ということは、そこに現れるかもしれない」
 瞳が輝く。全身に生気がみなぎるのを感じた。いるかもしれないという思いは、いつの間にか、いるに違いない、に変化した。ジキリのいうように、本当にエスメリアが赤い魔女として処刑されようとしているのなら、その場に颯爽と現れれば完璧ではないだろうか。
 ありがとう、スノウ!
 彼女はそういって、両手を広げてスノウを抱きしめるのではないだろうか。
 来てくれるって、信じてた!
「いやいや、そんな、エスメリア……当然のことをしたまでですから……いや、そんな……ああ……!」
「気持ち悪ぃな」
 ジキリがスノウから離れる。スノウはすっかり悦に入り、身悶えている。絶世の美形であるはずが、残念なことにいまはどの角度から見ても気持ちが悪い。しかし、スノウは一切気にしない。むしろ幸せだ。
「よし、決まった! すぐに行くぞ、ジキリ。目指すは王都ミセアランだ」
 明後日の方向を指さし、歩き出す。スノウはいまや使命感に満ちていた。やっと見つけた唯一の手がかりの欠片が、彼のすべてになっていた。
 しかし、つんのめる。ジキリがスノウの長い髪をつかみ、引き戻したのだ。
「なにをする」
 真剣に憤るスノウに、ジキリはあきれかえった様子で、息を吐き出した。
「そのまま放っといてどうなるかは見物だけどな。王都へのルートでも、知ってんのかよ。さっきのニュースマンのいったとおりだ。歩いて行ったんじゃ、間に合わねえ」
「む……」
 スノウはおとなしく引き下がる。まったくもってジキリのいうとおりだ。
「私が使えるのは、カイミーアとブルーアスを繋いでいるルートのみだ。この国には無数のルートがあるだろうが、在処もわからないし、鍵を知らなければ使うこともできない」
「あんたらの使う、そのルートってのな、おれにはさっぱり仕組みがわからねえけど、要するに古代人の遺産ってやつなんだろ」
 ジキリがさらりといって、スノウは露骨に顔をしかめた。古代人の遺産──それは実にトレジャーハンターらしい表現ではあったが、そのような言葉でひとまとめにされたくはない。
 とはいえ、この場で言及していても仕方がない。そう思う程度には、スノウは気を落ち着かせていた。
「それが、なんだ?」
 静かに先を促す。ジキリはにやりと笑って、教会を顎で指した。
「伝師なんつうやつはよ、たぶん忙しいよな。特別なルートを使うことができるやつが、この国にそう何人もいるとは思えない。少なくとも、一つの町に伝師が一人、みたいなシステムじゃあないはずだ。あのオレンジ色、今頃なにしてるだろうな?」
「そうか」
 スノウはうなずいた。
「おそらく、王都へ繋がるルートがあるのは、教会の内部か……その先か。しかし、人目につくところにはないだろうから、教会内で隠されていると考えるのが無難だな」
「そういうことだ」
 ううむ、とスノウは唸った。考えが足りない、考える方向がおかしい──散々エスメリアにいわれていることではあったが、こうしてエスメリア以外の第三者が頭を回転させているところを見ると、認めざるを得ない。そもそも、エスメリアにいわれたことを認めないという選択肢はないが。
「……聡明だな」
 心からそういうと、ジキリは心底いやそうに唇を曲げた。
「やめてくれ」