第一章 文字信仰 4







 霧が、押し寄せてくる。
 なんと愚かだったのだろうと、消え入りそうな意識の片隅で、己の無鉄砲さを呪う。
 まさか、自分の存在そのものが、呪いだのなんだのと評されているとは思いもせず、最愛のひとに思いを馳せる。 
「必ず……必ず、助けに行きます、エスメリア」
 霧は濃い。
 身体が蝕まれていくのを、はっきりと感じた。しかし、それだけだ。もう、動くことはできない。
 彼女は、どんなに心細い思いをしているだろう。
 冷たい牢獄に入れられたに違いない。
 食事を取ることもできず、毛布も与えられず、心細さに泣いているに違いないのだ。
 スノウは、目を閉じた。
 助けを求めることすらできず、命を落とすわけには、いかない。
 目的地は、もうすぐそこだ。
 そこに、いるはずなのだ。
 最後の力を振り絞り、スノウは獣の小さな手を、持ち上げた。