Elixir
第三章 医師団 4 数え切れないほどの赤い鳥が、月に照らされている。 列をつくり、まるで隙間なく寄り添うことが義務であるかのように、屋根の上に並んでいる。 「鳥……」 それを見上げて、サーラはつぶやいた。 ガリエンには、何度訪れたかわからないほどだ。まだ町としての体制が整っていないころから、幾度となく足を運んだ。 その鳥には、見覚えがあった。 ガリエンでは馴染みの鳥だ。暖かい空気が流れ込むようになってくると、南の海からこの地方へと渡ってくる。なんという呼び名がついていたかは、覚えていない。 「ああ、それで」 不意に、理解した。 それはまだ可能性の段階だ。しかしそれ以上のことを、サーラはする必要がなかった。 パジェンズの医師が、この町に来ている。 彼女に任せておけば、問題ないはずだった。 また、そうでなくてはならない。 それは、彼女の存在意義だ。 月明かりは、見慣れた形の屋根と、その屋根を覆う蔦も照らし出していた。サーラは闇に紛れて道を行き、玄関戸を叩く。 鍵を開ける音。初老の女性が顔を出し、会釈をした。 「いるかしら」 尋ねると、女性はうなずいた。 「医師と、男性が二人。医師は地下に」 「そう、ありがとう」 微笑んで、ランプを受け取る。階段を下り、ドアを開けた。 ベッドでは、少女が眠っていた。 どういうわけか、男物の小綺麗な服を着込んでいる。短い茶の髪とどちらかといえば貧弱な体型にひどく似合っていて、サーラは思わず笑ってしまう。 「また、そんな格好をして。せっかく綺麗な顔をしているのに」 サーラが身をかがめると、長い黒髪が前に落ちた。それを耳にかけ、少女の頬にそっと触れる。 「愛しいキルリアーナ。素敵な夢でも見ているのかしら」 右手を、頬から首筋へと少しずつ動かしていく。 シャツのボタンを外し、鎖骨の下、服の上からでは確認できない場所へ、唇を落とした。 歯を立てる。 血の味が、滲んだ。 「ああ、素敵よ、キルリアーナ」 顔を離し、サーラは舌で唇を拭った。 身体中の体液が、歓喜の声をあげていた。これほどの味には、久しぶりに出会う。 「きっともうすぐ、完成するわ。──ねえ、早くわたしと、ひとつになりましょう」 眠るキルリアーナにそう告げると、サーラは微笑みを残し、部屋を出て行った。 |
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