story6 忘れられた魔女 21
月が出ていた。
赤く長い髪と、白いワンピースの裾を風に遊ばせて、悠良は花畑に立っていた。
広大な敷地では、数多くの草花や木々が生きている。しかし、動物の気配はない。
セリーヌによって作り上げられた、作り物の自然。
決して枯れない植物たち。
悠良は、小さくため息を吐き出した。
長い一日。
たった一日だ。
「風邪ひくよー、悠良ちゃん」
軽い声がする。声とは違う手が、悠良に白い上着をかけた。
「ここは冷える」
悠良は振り返らない。
自分には、この二人がいる。常に、ともにいる。
しょせん、彼女の想いはわからない。
「翠華もさっさとどっかに消えたし。やっと三人、落ち着くね」
怜の言葉に、莉啓が静かに反論する。
「俺は貴様がいない方が落ち着く」
「ええっ、まだこんなこといってるよこのひと! 悠良ちゃん、なんとかいってやってよ!」
長年組んできたというのに、なかなか思いは通じていない。
それでもこの二人は、これで仲がいいのだろう──悠良は苦笑した。
「悠良、この自然公園は、どうする?」
死んでいる人間が作り上げたもの、行ったものは、なかったものとして処理されなければならない。カンパニーに関する建造物も、記憶も、すべてはもう消されていた。
残るは、この自然公園だけだ。
悠良は月を見上げる。青い月。視線を落とすと、決して枯れない木々や花が目に入った。
「自然」ということばが、胸に広がる。
自然とは何なのか。
生きているとは、何なのか。
「放っておきましょう。セリーヌ=エリアントがいなくなったんだもの、そのうち枯れるわ」
「いいの? ……そんなことして」
ま、俺はかまわないけど──怜の問いかけに、悠良は静かな笑みを返す。
本来なら、天界の掟に反することだ。
しかしすべてを消してしまうことなど、やってはいけないことのような気がした。
それでは、あまりにも悲しい。
「行きましょう。次のターゲットのところへ」
きゅっと上着の首もとを閉め、悠良は毅然といい放った。
当然のように、二人の聖者があとに続く。
三人の旅は終わらないのだ。
たとえ、死神と罵られようとも。
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2006年執筆。
読んでいただき、ありがとうございました。
このシリーズ初の長編です。初期から設定だけはあった翠華をやっと出すことができました。
このシリーズは短編でやるべきだったかと反省も。精進します。