ネコのねがいごと
オレは鳩。仕事熱心な鳩。
「あとひとつだな」
書類に目を通しながら、上司がため息と一緒に言葉を吐き出す。上司というのは烏だ。その大きなからだ、長いくちばしで、いつだって偉そうに指令をくだす。それが嫌で、この仕事から抜けた仲間は数知れない。
だが、オレは仕事熱心な鳩。そんなことはどうでもいい。
あとひとつといわれたなら、あとひとつ、寝る間も惜しんでノルマ達成に努めるのみ。
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あたしはネコ。ちょっとかわいそうなネコ。
優太くんととっても仲良し。ううん、正確には、仲良しだった、ってことになる。
あたしは、優太くんがうんと小さいころから知ってる。
最初は泣いてばっかりだったのに、いつのまにか歩けるようになって、気がついたらランドセルを持って、あたしとはちがう時間を過ごすようになった。寂しいけど、それはしようがない。人間ってそういうものだって、あたしはちゃんとわかってる。
あたしがかわいそうだっていうのは、そんなことじゃない。
だって、あたしはまだ、優太くんといたかった。
一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒にあたたかい空気を感じていたかった。
「なんだ、暗い顔して」
鳩があたしの隣に降り立った。あたしは思わず警戒したけど、公園で見る鳩とは、なにかがちょっとちがう。第一、いまのあたしに話しかけてくるっていうのが、もうふつうじゃない。
「あなたは、なに?」
「オレは鳩さ、仕事熱心な鳩。あんたは、いかにもかわいそうってふうだな。望みがあるなら、いってみな」
「いったら、叶えてくれるの?」
「それがオレの仕事なんだ」
見るからに胡散臭かったけど、ほかに相手もいないから、あたしは話すことにした。
「優太くんに会いたいの。優太くんと一緒にいたいの。優太くんは、あたしのせいで、毎日悲しそうにしているから」
鳩は、ガラス玉みたいな目をぱちくりさせて、ふぅむ、とうなずいた。
「なるほどね。いいだろう、オレがなんとかしてやる。まかせときな」
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ぼくはにんげん。たぶん、世界じゅうでいちばんワルイにんげん。
だいじな友だちに、ひどいことをいった。
ずっといっしょにいて、ずっとなかよくしてきたのに、あの日ぼくは、とてもひどいことをいった。
ダイキライっていった。
シンジャエっていっちゃったんだ。
リィが、ぼくのだいじなものを、ぐしゃぐしゃにしちゃったから。
母の日のプレゼントに、学校でかいたママのかお。すごくじょうずにかけて、すごいね、じょうずね、ってママがいってくれるのが、たのしみだったのに。
そしたら、リィは、ほんとうにしんじゃった。
車にはねられたんだってママはいったけど、ぼくは知ってる。
ぼくがシンジャエっていったから、しんじゃったんだ。
「リィにあいたいな」
ぼくは石ころをけとばした。
学校からのかえり道だって、おうちについたらリィとおひるねしようかな、それともいっしょにあそぼうかなって、そんなことを考えてたらつまらなくなんてなかったのに。見えるものがぜんぶ笑ってるみたいで、きらきらしてて、なんだって楽しかったのに。
でも、いまは、こんなにつまんない。
リィにあいたい。
あいたいよ、リィ。
「いたい」
しんぞうのとこがいたい。かなしくて、いたい。でも、リィはもっといたかったはずだ。
いたいところをつかんで、そのまま立ちどまる。
そのとき、信じられないものを、みつけてしまった。
大きな道のむこうがわに、小さな黒いネコ。
そんなハズない。
そんなハズない。
わかっているのに、もう、そこしか見えなくなった。
ママといつも行く、小さなスーパー。リィはお店のなかには入れないから、いつも入り口のとなりでちょこんとすわって待っていた。
ぼくが出てくると、ニャアって鳴いて、ぼくにとびついてきた。
ネコじゃないみたいに甘えんぼで、やさしくて、かわいいリィ。
だいすきなリィ。
まちがいない、ぼくが見まちがえたりなんてするわけない。
リィだ。
リィがいる。
入り口のとなりにすわって、こっちを見ている。
ここから見ると、リィはほんとうに小さくて、もしかしたらしんだから小さくなっちゃったのかもしれなくて、ぼくはどきどきした。
ぼくとリィのあいだを、車が行ったりきたりする。それでもぼくは、リィから目をそらさなかった。
あいにきてくれたんだ。
むねのあたりが、ぎゅうってなった。うれしいのか、かなしいのか、わかんなくなった。なんだか、はながツンとして、泣きそうになる。
「ニャア」
たしかに、聞こえた。
リィが鳴いた。
まちがいなく、リィの声だ。
ぼくは、たまらなくなって、そのまま道へとびだした。
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私は烏。動物たちの願いを叶える烏。
といっても、いってしまえば中間管理職だ。部下にノルマを催促し、上司からはノルマを催促される、実につまらない日々。胃薬はもはや常備薬だ。
しかし、私なりに、この仕事を気に入っている。
動物たちの喜ぶ顔を見るのは、なかなかに気分がいい。
「ノルマ達成しましたよ」
部下の鳩がやってきた。脇には小さなネコと、小さな人間。
なぜ人間を連れてくるのかと、疑問を覚える。しかし、そのネコには見覚えがあった。私は、すべてを理解した。
「なるほど、君か。君の願いはなかなか興味深かった。死した身でありながら、大好きな人間に会いたい、一緒にいたい……君の願いを叶えるにはどうしたものかと思ったが──ふむ、私の部下はなかなか上手にことを運んだようだ。さあ、これからはずっといっしょだ。思う存分、楽しむといい」
鳩が満足げに胸を張る。なぜだか、人間は泣いている。
ネコは、満面の笑みを私に向けた。
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5分企画参加作です。
テーマは動物。
ダークなのは私の趣味です。