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蚊ウォーズ



 



 西暦二千十七年、夏──
 日本中が、愛知県名古屋市中央競技場で行われる会議に、注目していた。
屋外にある競技場の中央には、明らかに不似合いな机が一つ。その右側に、ずらりと並ぶスーツ姿の男たちは、一様に難しそうな顔をして、ハンカチで汗を拭っている。机の左側は、空気が黒ずんでいるように見えるものの、人の姿はない。
一人、物々しい机の前に立つ代表の男は、怒りを露わに、バン、と拳をたたきつけた。
「話が違う、といっているんだ!」
 その剣幕に、スーツ姿の男たちも、遠巻きに彼らを取り囲む取材陣も、息を飲んだ。
 和解が成立するかどうかの、実に大事な局面だ。
 大きく出た代表の勇姿に、日本に住む多くの人間が、テレビの前でエールを送った。がんばれ、と。
 しかし、相手側はひるむ様子もなく、涼しい顔で風に揺れてみせた。
「プーン」
 耳障りな音が、マイクを通して響いた。すかさず、通訳の女性が続ける。
「しかし、先に約束を反故にしたのは、おまえたち人類の方だ」
 カッと憤怒に顔を赤く染め、代表の男はもう一度机を殴る。
「それでも! 我々は、病気などのやむを得ない場合を除き、十八歳以上の全員──いいか、日本中の、可能な限り全員だ──から、一人あたり二百ミリリットルの採血を行い、そちらに提供した! それなのに、被害の声が後を絶たない……! これは、明らかに契約違反ではないのか!」
しん、と静かになった競技場で、誰もが息を殺し、相手の反応を待った。
 室内ではどんな罠にはめられるかわからないという相手側の意向で、屋外に設けられた話し合いの場は、異様な熱気を帯びながらも、どこかひやりとした空気を漂わせていた。
 それが人類の緊張によるものなのか、それとも彼らの非道な精神によるものなのかは、定かではなかったが──通訳の女性は、後に、こう語っている。「とにかく、全身が痒くてたまらなかった」と。
「ぷーん」
 相手側の代表が、冷ややかに揺れた。通訳の女性が、マイクを構える。
「そもそも、我々は、十八歳未満の血の方が好きなんだよね」
「…………!」
怒りに言葉を失う代表の後ろから、耐えきれず、スーツ姿の男たちが怒号をあげた。
「我々を侮辱しているのか!」
「こうなったら、全面戦争だ! 貴様ら全員、たたき落としてやる!」


 こうして、一度は和解を見るかと思われた彼らとの戦いは、なおも続くこととなる──

 人類対、蚊──
 最後に笑うのは、どっちだ。
  











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大変くだらなくてもうしわけないです。
『虫なんて大嫌いシリーズ』第一弾。